がんになり、初期の治療が一段落した後、がん体験者(サバイバー)と家族の方々は、「どのような食生活をすれば再発を防ぐことができるだろうか」と真剣に考えることと思います。
ちまたには様々な情報が氾濫しているので何を選択すればベストなのか悩まれることでしょう。
目次
科学的に確認されたがんの食事療法はあるのか?
結論から言うと、「がんの再発率・生存率・死亡率を改善することが、科学的に十分確認された食事療法」は、まだ存在していないようです。ここで「科学的に十分確認された」とは、「複数の大規模なランダム化比較試験で有効性が示された」という意味です。
がんの食事療法についての本格的な研究は、世界的にも始まったばかりの新しい分野であり、科学的なデータがまだ少ないという現状があります。
2006年以降、米国で乳がん患者の食事と再発に関する臨床試験が報告されています。
一例としては、術後の早期乳がん患者2,437人を、食事指導群(低脂肪食、脂質エネルギー比15%を目標)と比較群(一般的な食事指導)の2グループにランダムに分けて、平均5年の追跡調査を行いました。乳がんの再発率は食事療法群(9.8%)が比較群(12.4%)より低く、食事療法群の再発リスクが24%低くなるという結果があります。
一方で、米国から臨床試験が報告されましたが、食事療法による再発率の改善を認めないという結果でした。この研究では、術後早期乳がん患者3,088人を、食事療法群(野菜・果物・食物繊維を増やし、脂質エネルギー比15-20%に減らす)と比較群(食生活に関するパンフ配布)の2グループにランダムに分けました。平均7.3年の追跡調査で、乳がんの再発率は食事療法群(16.7%)と比較群(16.9%)と差がなく、総死亡率も(10.1%対10.3%)差がありませんでした。
二つの研究が矛盾する現状では、乳がんの再発予防に対する、低脂肪食を中心とする食事療法は、有望とは言えるが意義が確立したとはまだ言えない状況です。
乳がん以外の食事療法による再発予防に関するエビデンスのある研究はほとんどないのが現状のようです。
がん再発を防ぐにはどんな食事が良いのか?
「がんの再発率・生存率・死亡率を改善することが、科学的に十分確認された食事療法は、現在のところ存在しない」という現状で、がん体験者の方々は、どのような食事をすることが望ましいのでしょうか?
手がかりを与えてくれるのは、米国対がん協会(American Cancer Society)が2012年に公表した、「がんサバイバーのための栄養と運動のガイドライン」第4版があります。
ここでは、米国対がん協会が専門委員会を組織し、がん体験者の食事と運動に関する最新の研究を調べてまとめた上で、がんの治療後の生活について助言をしています。
このガイドラインは、米国のがん体験者を念頭において作られていますが、日本のがん体験者と家族の方々にも、参考になる部分が多いでしょう。
米国対がん協会2012年ガイドラインのまとめ
ガイドラインの結論部分を、以下に示します。
がんサバイバーの栄養と運動に関する米国対がん協会2012年ガイドライン
健康的な体重へ減量し、その体重を維持しましょう。
- 過体重や肥満の場合は、高カロリーの食物や飲料を制限し、減量するために運動量を増やしましょう。
定期的に運動しましょう。
- 運動不足を避けましょう。そして、診断後もなるべく早く通常の日常生活を取り戻しましょう。
- 1週間に150分以上運動することを目標としましょう。
- 1週間のうち2日以上は筋力トレーニングを運動の中に含めましょう。
野菜、果物、全粒穀物を多く含む食事パターンにしましょう。
- 「がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン」に従いましょう。
ポイント
「がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン」は、「がん体験者」ではなく、「健康な人」が、がんになるのを予防するためのガイドラインです。その抜粋を以下に示します。
がん予防のための栄養と運動に関する米国対がん協会ガイドライン(抜粋)
生涯を通じて、健康体重を達成し維持しましょう。
- 生涯を通じて、やせにならない範囲で、できるだけ体重を少なくしましょう。
- すべての年代で、過剰な体重増加を避けましょう。過体重や肥満の人にとって少しの体重減少であっても、健康に有益であり、よいきっかけとなります。
- 健康体重を維持するために、定期的に運動し、高カロリーの食物や飲み物の摂取を制限しましょう。
運動をしましょう。
- 成人:一週間に中等度の運動を150分間、または、強度の運動を75分間(または両者の組み合わせ)を、できれば一週間を通して偏らないように行いましょう。
- 小児と青少年:毎日、中等度または強度の運動を1時間以上行い、強度の運動を一週間に3日以上行いましょう。
- 椅子に座る、寝転ぶ、テレビを観る、映画やコンピュータなどの画面を見る娯楽などの、非活動的な行動を少なくしましょう。
- 普段の運動量が高い場合でも低い場合でも、普段以上の運動を行うことは、健康上多くの利益につながります。
植物性の食物に重点を置いた、健康的な食事をとりましょう。
- 食物と飲み物を選ぶ際には、健康体重を達成し維持するために必要な量にしましょう。
- 加工肉*1や赤肉の摂取を少なくしましょう。
- 毎日5盛り以上の野菜と2.5盛り以上の果物を食べましょう。
- 精製穀物製品代わりに全粒穀物を選びましょう。
飲酒する場合は、量を制限しましょう。
- 女性は1日1ドリンク、男性は1日2ドリンクを限度としましょう。